デジタルフォントは、
「プログラム」という観点からすると著作物として保護がある一方で、
「文字」というものには、著作物としての保護がありません。
これがデジタルフォントを使用する上で、ややこしい点なのですが、 メーカー(提供者)が使用許諾範囲を設けることにより、著作権侵害を未然に防ぐという仕組みになっています。
前述しましたが、
(1)デジタルフォントをプログラムとして使用するか。
(2)デザインされた一つの文字として使用するか。
で著作権の有無が変わります。
使用する際は、この要素を最初に確認すると混乱せずに済みます。次に、
(3)ロゴ・映像・電子書籍に使うか。
という部分を確認すると許諾範囲の大筋を理解したことになります。
こうした許諾範囲のバラつきの原因に下記の2点が挙げられます。
イワタはイワタ明朝オールドという書籍に特化した不動の書体を持っていますので、電子書籍には別途契約が必要となります。ダイナコムウェアは、麗雅宋や優雅宋など映像媒体で支持の強い書体を多く所持していますので、パッケージ購入製品では映像への使用が認められていません。(年間ライセンス契約のみ)
Optima/ヘルマンツァップ:1952年〜58年と長い年月をかけて制作された書体。上記のように商標ロゴの大半に使用されても、彼は書体使用料を一切得ていません。仮にこれが音楽だったら、作曲者には結構な額を得ることが出来るのではないでしょうか?こうした文字特有の仕組みが創作意欲の低下を招く可能性があるため、メーカー毎に許諾が異なります。
しかしながら、こうした創作物にデジタルフォントを使用した際、いちいち制作者の氏名や書体名の記載をしなければならないとなると、それはそれで面倒です。例えば、ゲームユーザーがゲーム動画などを配信する際、「キャラクターを担当したイラストレーターの氏名も表示しなければ侵害となる。」というルールが誕生したら、クレジットを入れるだけで1日が終わってしまいます。ですから書体制作とは、そういうものなのだと諦め、別なビジネスモデルを模索する方が賢明です。
このようにデジタルフォントは、著作権で保護されないが、何らかの保護が必要だと判断したものは、メーカーが独自保護(別途使用契約・規約)を設けることで成り立っています。故に、自ずと許諾範囲がバラつきます。
モリサワ/モリパス 商標・意匠登録:×
ライセンスの記載 禁止事項 10 )本フォントを使用して作成したロゴを商標登録・意匠登録すること
タイプバンク/PASSPORT 商標登録・意匠登録:×
ライセンスの記載 禁止事項 10 本フォントを使用して作成したロゴを商標登録・意匠登録すること
字游工房 商標登録・意匠登録:×
ライセンスの記載 お客様は、許諾フォントを使用してロゴタイプを制作し、意匠として商標登録をしてはなりません。
【解説】
書体の意匠登録とは、名刺や看板の名入れサービスなどで見本として書体を使えないという意味になります。他の意味合いですと、現代はアプリの表示画面を意匠登録できたりします。(表示の位置など)その際に書体が関わる可能性を考慮して念のために禁止にしているというものです。
字游工房のライセンスに “お客様は許諾フォントが日本国内の著作権法、その他の知的財産権と工業所有権、意匠権によって、保護されていることに同意するものとします。” というものがありましたが、2019年現在ではデジタルフォントに意匠権は認めてられませんので、やや行き過ぎた文章です。
えびすフォント・ライブラリー 商標登録:×
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
禁止事項に著作者を誹謗中傷することなど特殊なものがあります。
井上デザイン 商標登録:×
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
モトヤ/LETSサービス 商標登録:連絡が必要・別途料金
【解説】
→ 明確な商業使用(ブランディング構築)に対し、デザインのショートカット費を請求。
ダイナコムウェア 商標登録:許諾確認が必要
【解説】
→ 明確な商業使用(ブランディング構築)に対し、デザインのショートカット費を請求。
パッケージ版のライセンスは映像作品に使えないのご注意。DynaSmartVという年間ライセンスのみ使用可能です。
視覚デザイン研究所 商標登録:申請が必要・別途料金
【解説】
→ 明確な商業使用(ブランディング構築)に対し、デザインのショートカット費を請求。
文字数毎で金額を算出で分かりやすい。
ニィス 商標登録:申請が必要・別途料金
【解説】
→ 明確な商業使用(ブランディング構築)に対し、デザインのショートカット費を請求。
砧書体制作所 商標・意匠登録:申請が必要・別途料金
【解説】
→ 明確な商業使用(ブランディング構築)に対し、デザインのショートカット費を請求。
→ 書体見本での使用や意匠登録する工業製品への使用の際、別途料金がかかるというものでしょうか?
タイポグラフィックス 蓮 商標登録:申請が必要・別途料金
【解説】
→ 明確な商業使用(ブランディング構築)に対し、デザインのショートカット費を請求。
フォントワークス・イワタ/LETSサービス・mojimo各種 商標登録:○
ライセンスの記載 ※フォントのタイプフェイス及びプログラムの独占使用は不可。←何を言ってるのかわかりません。
【翻訳】
フォント:言語のひとまとまり。プログラム。
タイプフェイス:書体及び、デザインされた文字の形
【解説】
→ 商標登録代行サービスなどで、書体見本として商業使用する行為は禁止。
Adobe/Adobe Fonts 商標登録:○
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
Apple 商標登録:○
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
MICROSOFT 商標登録:○
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
Google font 商標登録:○
【解説】
→ ほとんどがオープンソースフォントなので、若干の許諾の違いはあるが大方ゲームなどにも気軽に使える。
白舟/J-FONT 商標登録:○
但し
→ 商標登録代行サービスなどで、書体見本として商業使用する行為は禁止。
Type Project 商標登録:○
【解説】
→ 但し、ロゴを作成し販売することは禁止。白舟などと同様。
朗文堂 商標登録:○
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK
電子機器・ゲーム機器への埋め込み以外は基本OK
FONT1000/MOJIパス 商標登録:○
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
デザインシグナル 商標登録:○
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
NET DTP 商標登録:△
【解説】
→ 書体アウトラインサービス(主に写研時代の書体を漁る時に使います)
※最近のサイト感覚で、安易に会員登録を済ませると入会金10,500円を請求扱いになります。ご注意ください。
→ 商標使用はメーカー毎の確認が必要。
→ 写研書体は商標登録に使用できますので、アウトラインサービスは基本問題ありません。。
→ 通常使用は、著作権に触れない部分はOK。ただし、アウトラインデータを含んだ作業データなどの公開・譲渡は禁止(イラスト素材などと同様のライセンス)。
まとめてみると、メーカーの書体を使用したロゴに対する見解が伺えます。モリサワ・タイプバンク・字游工房・えびす・井上デザインは厳格で、モトヤ・ダイナ・視覚デザイン研究所・ニィス・砧書体制作所・蓮は、商標ロゴに使用する行為(創作活動のショートカット)に対し、使用料を設けています。 他のメーカーは、商標使用に対し寛容です。
少し混乱しますが、Adobe Fontsで使えるモリサワの書体や視デ研の書体は、Adobe Fontsが管理していますから、商標登録が可能です。字游工房の游明朝もMICROSOFT・Appleが管理のものでしたら商標登録に使用できます。
偶然、登録商標を検索していたら見つけたものですが、100%ベース書体は「はるひ学園サワです。もちろん加工済みですが、この程度の処理で、書体が本来の書体として認識がなくなる(裁判所の判定は客観性を重視する)のであれば、規約とはいったい何なのでしょう?結局のところ規約を設けても、その使用状況の多さから 取り締まることができない、という抜け道がどうしても出てきてしまいます。
フリーフォントの許諾範囲は、クレジット入れろ!とか、商用の場合は製品版買え!など制作者毎の事情が様々なので詳細は割愛しますが、
(1)オープンソースフォントの派生か
(2)全て自作か
(3)販売目的のサンプルか
(4)ネタで作ったものか
で分け、基本的にオープンソースの派生と、許諾が明確に記載されて、あまりうるさくなさそうなフォントを優先的に使用していると安全です。
オープンソースフォント 商標登録:○
源ノ明朝・ゴシック/IPA明朝/M+ 及び派生書体
【解説】
→ 通常使用:データの改変も含め様々な使用が認められている。
※派生物単体での販売はできない。
NG例:LINE絵文字
※派生の派生ができないものもある。
完全自作 商標登録:△
マキナス/チェックポイント/しねきゃぷしょん/たぬき油性マジック/MTたれっぴ など
【解説】
→ 通常使用:著作権に触れない部分はOK。
商標登録は明記がなければお問い合わせ
販売目的のサンプル 商標登録:×
フロップデザイン商用フォント/全児童フォント など
【解説】
→ フリーフォント版と有料版があるもの。フリーフォント版の商用使用に対し厳しい取り締まりがあるのかというと微妙ですが、同封ライセンスの確認必須。
ネタで作った 商標登録:×
ドラえ文字/きんいろサンセリフ など
【解説】
→ 作品のタイトルから派生させたもの。
書体固有のデザインが、作品を連想できるほど周知性の高いものは、文字でも限定的な範囲で著作物としての効力が認められる場合があります。
個人の範囲内でデジタルフォントを作成するまでは問題ないのですが、作品の周知性を考慮に入れた上で、制作・公開は節度を大切にしてください。
メーカーの対応を考慮に入れると、デジタルフォントを公開した際、
商標登録一律:¥10,000(現実的な額での提示)などとしても特に問題ないと思います。ただ、規約が面倒と使用自体が敬遠される可能性もあります。
後ほど詳しく説明しますが、商標登録されている作品のタイトルから派生させた書体を、商用目的に使用することはNGなのか?というと商標侵害の観点から見ると、同一の文字列で、さらに商標登録されている売り場で使用しない限り問題ありません。
度を越すと周知性の高いものは不正競争防止法で、低い作品は民法の不法行為にて取り締まることが可能です。
こうした部分を後日に説明していきたいと思います。
■引用・参考一覧■
※1『文字百景 29 ヘルマン・ツァップが怒った 活字デザインの未来』/組版工学研究会 坪山一三 朗文堂
『クリエイターのための権利の本』/ボーンデジタル
『デザイン保護法制の現状と課題 法学と創作の視点から』/麻生 典 日本評論社
『タイプフェイスの法的保護と著作権』/大家重夫 久留米大学法政叢書
■表記について■
(1)混同を避けるため、「フォント」を一定の言語圏の文字の一揃いを入力できるプログラムとして、「書体」を書体名など固有のものを指定する際に用いる。
(2)【自由】と【権利】という言葉は、翻訳の上で曖昧に広まってしまった日本語のため可能な限り“保護”いう言葉に置き換えています。
2019. 4. 10 WED / もじワク研究:ひろきちゃん